相続登記の現場で司法書士が感じる、家族が困りやすい5つのポイント
2026年08月17日 16:04
「うちは家族仲がいいから、相続でもめることはないと思います」
相続のご相談を受けていると、このようなお話をよく伺います。
もちろん、家族仲が良いことは、とても大切なことです。
でも、相続の現場では、家族同士が争っているわけではないのに、手続きがなかなか進まないということが少なくありません。
私は司法書士として、これまで数多くの相続手続きをお手伝いしてきました。
その中で感じるのは、相続で家族が困る原因は、必ずしも「家族の仲の悪さ」ではないということです。
むしろ、
生前に何も決めていなかった
家族それぞれが違うことを考えていた
財産のことを家族に伝えていなかった
相続が始まってから、初めて分かったことがあった
といったことが、手続きを難しくする原因になっています。
今回は、「元気なうちに少し準備しておけば、家族がもっと楽だったのに」と感じることの多い5つのポイントをご紹介します。
1.「自宅は長男が継ぐ」と家族みんなが思っていた
相続のご相談で、よくあるのが、
「この家には長男が住んでいるので、長男が相続することになっています」
というお話です。
ご家族の中では、以前からそのような話になっていたのかもしれません。
ところが、実際に相続が始まると、そう簡単にはいかないことがあります。
遺言書がなければ、原則として相続人全員で、誰がどの財産を引き継ぐのかを話し合う必要があります。
「みんな長男が家をもらうことで納得しているから大丈夫」
と思っていても、いざその時になると、
「私はそんな話を聞いていない」
「家をもらう代わりに、他の財産はどうするの?」
など、それぞれの考えが出てくることがあります。
もちろん、家族が話し合って納得できれば問題なく進むこともあります。
でも、亡くなった方が生前に「この家は長男に残したい」と明確な意思を残しておけば、残された家族が迷わずに済むことがあります。
「家族なら分かってくれる」と思うだけではなく、自分の希望をきちんと形にしておくことも、家族への思いやりの一つです。
2.「相続人全員で話し合えば何とかなる」と思っていた
遺言書がない場合、相続人全員で話し合って、財産の分け方を決めることになります。
ここで意外と大変なのが、相続人全員と連絡を取ることです。
例えば、
兄弟の一人が遠方に住んでいる
長年連絡を取っていない
海外に住んでいる
再婚などによって家族関係が複雑になっている
といった事情があると、話し合いを始めるまでにも時間がかかります。
また、相続人の中に判断能力が低下している方がいる場合には、「みんなで話し合って決めればいい」と簡単にはいかないこともあります。
相続が始まってから、
「こんなに大変だとは思わなかった」
と気づく方は少なくありません。
生前に、
「自分が亡くなった後、誰に何を残したいのか」
を考えておくことは、残された家族の負担を減らすことにつながります。
3.「親の家だから、売るのは簡単」と思っていた
「父が亡くなったら、この家を売って、そのお金を兄弟で分ければいい」
このように考えている方もいらっしゃいます。
もちろん、相続した不動産を売却することはできます。
ただし、実際には、亡くなった方の名義のままでは、そのまま売却することはできません。
誰がその不動産を引き継ぐのかを決め、必要な手続きをして、名義を変更したうえで売却することになります。
また、手続きを進めてみると、
「実は亡くなった父だけの名義ではなかった」
「昔の相続がまだ済んでいなかった」
「土地と建物で名義が違っていた」
ということが分かる場合もあります。
相続のご相談を受けていると、「家を売ればいいと思っていたのに、そこまでたどり着くのにこんなに手間がかかるとは思わなかった」という声を聞くことがあります。
不動産をお持ちの方は、一度、ご自身の不動産が誰の名義になっているのか確認しておくことをおすすめします。
4.「認知症になってから考えればいい」と思っていた
「まだ元気だから、遺言はもう少し先でいい」
そう考える方も多いと思います。
確かに、遺言書は早ければいいというものではありません。
ただ、遺言を書くことも、財産について家族と話すことも、ご本人が元気で、自分の意思をしっかり伝えられるうちだからこそできることがあります。
特に、不動産をお持ちの方は注意が必要です。
例えば、
「将来、施設に入ることになったら、自宅を売って生活費に充てよう」
と考えていたとしても、その時になって本人の判断能力が低下していると、思うように手続きを進められない場合があります。
「まだ元気だから大丈夫」ではなく、
「元気な今だからこそ、できる準備がある」
と考えておくことが大切です。
5.「財産のことは家族なら分かっている」と思っていた
最後に、意外と多いのがこのケースです。
「家族だから、自分の財産のことはだいたい分かっているだろう」
と思っていても、実際には、
どこに不動産を持っているのか
自宅の名義は誰になっているのか
預貯金口座はいくつあるのか
借入れはないか
遺言書を作っているのか
などを、家族が正確に把握していないことがあります。
特に不動産は、現在住んでいる自宅だけとは限りません。
昔購入した土地、親から相続した土地、遠方にある不動産など、所有している本人以外は、その存在すら知らないということもあります。
相続が始まってから、
「そういえば、あの土地はどうなっているんだろう?」
となると、そこから調べなければなりません。
財産の内容を一覧にしておくだけでも、残された家族の負担は大きく変わります。
相続の準備は「家族がもめないため」だけではありません
ここまで5つのポイントをご紹介しました。
相続というと、
「家族が争わないようにする」
ということがまず頭に浮かぶかもしれません。
でも、私が相続手続きをお手伝いしていて感じるのは、家族仲が良いご家庭でも、相続のことで困ることがあるということです。
家族が争っていなくても、
「誰がこの家を引き継ぐのか分からない」
「不動産の名義がどうなっているのか分からない」
「相続人全員と連絡を取るのが大変」
「親がどんな希望を持っていたのか分からない」
というだけで、手続きは複雑になります。
だからこそ、相続の準備は、
「家族がもめないため」だけではなく、「残された家族が困らないため」
にも必要なのです。
まずは「自分の財産」を整理するところから
「遺言を書いた方がいいのは分かっているけれど、何を書けばいいのか分からない」
という方も多いと思います。
そんな方は、いきなり遺言書を書こうとしなくても大丈夫です。
まずは、紙に次のことを書き出してみてください。
① どんな不動産を持っているのか
自宅だけでなく、土地や別荘、昔購入した不動産なども確認してみましょう。
② 預貯金などの財産はどのくらいあるのか
銀行口座や証券など、自分がどのような財産を持っているのか整理してみましょう。
③ 誰に何を残したいのか
「自宅は長男に」「預貯金は子どもたちで分けてほしい」など、まずは自分の希望を書き出してみます。
④ 家族にどんな負担をかけたくないのか
「家族に手続きで苦労してほしくない」「兄弟で争ってほしくない」など、自分が大切にしたいことを考えてみましょう。
ここまで整理すると、
「遺言を作った方がいいかもしれない」
「自分の希望をきちんと残しておいた方がよさそうだ」
と、次に考えるべきことが見えてきます。
「まだ元気だからこそ」できる準備があります
相続の準備は、亡くなる直前にするものではありません。
むしろ、元気で、自分の意思を自分で決められる今だからこそできる準備があります。
「子どもたちには迷惑をかけたくない」
「自分が亡くなった後も、家族には仲良くしてほしい」
そう思っているのであれば、まずはご自身の財産と家族のことを、一度整理してみてはいかがでしょうか。
私は司法書士として、これまで数多くの相続手続きに携わってきました。
その経験からお伝えしたいのは、
「家族が仲良くても、相続の準備はしておいた方がいい」
ということです。
遺言書は、家族を縛るためのものではありません。
残された家族が迷わないように、ご自身の意思を残しておくためのものでもあります。
「そろそろ遺言を考えた方がいいのかな」
そう思ったときが、準備を始める一つのタイミングなのかもしれません。
まずは、今ご自身がどんな財産を持っているのか、そして、誰に何を残したいのか。
そこからゆっくり考えてみてはいかがでしょうか。