相続が始まってから「こんなはずじゃなかった」とならないために|司法書士が実際に見る5つの困りごと
2026年08月25日 19:01
「父が亡くなったら、実家を売って兄弟で分ければいい」
「母の預金を解約して、子どもたちで分ければいい」
「家族みんな仲がいいから、相続の手続きもすぐ終わるだろう」
相続が始まる前は、このように考えている方も多いと思います。
ところが、実際に相続が始まると、
「思っていたより大変だった」
「こんな手続きが必要だとは知らなかった」
「もっと元気なうちに聞いておけばよかった」
と感じる方は少なくありません。
私は司法書士として、これまで数多くの相続手続きをお手伝いしてきました。
その中で感じるのは、相続で困るのは、必ずしも家族仲が悪いご家庭だけではないということです。
むしろ、家族は仲が良いのに、事前に何も準備していなかったために手続きが大変になるケースもあります。
今回は、相続手続きの現場で実際によくある「困りごと」を5つご紹介します。
1.「相続人は家族だから分かっている」と思っていた
まず多いのが、
「相続人は妻と子どもたちだから、すぐに手続きできるでしょう」
というケースです。
ところが、実際の相続手続きでは、まず「誰が相続人なのか」を戸籍で確認する必要があります。
例えば、
前の結婚で子どもがいる
子どもが先に亡くなっている
子どもがいない
兄弟姉妹が相続人になる
など、ご本人やご家族が思っていたよりも複雑な相続関係になっていることがあります。
「家族のことだから、みんな分かっている」
と思っていても、法律上の相続人を確認するためには、戸籍を集めて調べなければなりません。
そして、相続人が一人でも増えれば、その方を含めて話し合いや手続きをする必要があります。
「相続人の確認」だけでも、意外と時間がかかります
相続が始まってから慌てないためにも、元気なうちに、
「自分が亡くなったら、誰が相続人になるのか」
を一度確認しておくと安心です。
前回の記事でもお伝えしたように、遺言書を考えるときにも、まず相続人を確認することは大切です。
2.「自宅は売ればいい」と思っていたら、名義の問題があった
不動産の相続で、特に気をつけていただきたいのが「名義」です。
例えば、
「父が亡くなったら、この家を売って兄弟で分けよう」
という話をしていたとします。
ところが、調べてみると、
「この土地は父の名義だけれど、建物は母の名義だった」
「父が亡くなっているのに、土地の名義が祖父のままだった」
など、思いがけないことが分かる場合があります。
不動産は、単純に「亡くなった人が住んでいた家だから、その家を相続する」というだけでは終わらないことがあります。
まず、誰の名義になっているのかを確認することが大切です。
特に、何代も前から相続登記がされていない不動産については、現在の相続だけでなく、過去の相続関係まで確認しなければならないことがあります。
「この家を売ればいい」と思っていたのに、その前にやることがたくさんあった。
これは、不動産の相続では決して珍しいことではありません。
3.「兄弟みんな納得している」と思っていたのに、
話し合いが進まない
相続では、遺言書がない場合、相続人全員で財産をどう分けるか話し合うことになります。
これを「遺産分割協議」といいます。
言葉だけ聞くと難しく感じますが、簡単にいうと、
「亡くなった方の財産を、誰がどのように引き継ぐのかを相続人全員で決める話し合い」
です。
「兄弟みんな仲がいいから大丈夫」
と思っていても、実際に財産を分ける段階になると、それぞれの事情が出てくることがあります。
例えば、
「長男はずっと実家に住んでいたのだから、家をもらうのは当然」
と考える人もいれば、
「家をもらうなら、その分、預金は他の兄弟で分けたい」
と考える人もいるかもしれません。
どちらが正しいという話ではありません。
それぞれの立場から考えれば、どちらにも言い分があります。
だからこそ、「家族なら分かってくれる」と思っているだけではなく、元気なうちに自分の希望を伝えておくことが大切なのです。
4.「必要な書類は、家族が探せば何とかなる」と
思っていた
相続手続きでは、さまざまな書類が必要になります。
例えば、不動産の手続きであれば、戸籍や住民票などを集める必要があります。
銀行などの手続きでも、相続人であることを確認するための書類を求められます。
ここで困るのが、
「どこに何があるのか分からない」
という問題です。
例えば、
「通帳はどこ?」
「この土地の書類は?」
「生命保険はどこに入っていた?」
「遺言書は作ってある?」
と、家族が一から探すことになります。
特に、本人しか分からない財産や契約があると、調べるだけでも大変です。
財産の一覧を作っておく、重要な書類の保管場所を家族に伝えておく。
それだけでも、残された家族の負担は大きく変わります。
5.「相続が終わるまで、そんなに時間はかからない」
と思っていた
相続が始まると、
「四十九日が終わったら手続きをすればいい」
「数か月あれば終わるだろう」
と考える方もいらっしゃいます。
しかし、相続手続きは、相続人の人数や財産の内容によって、時間がかかることがあります。
特に不動産の場合、
相続人を確認する
↓
必要な書類を集める
↓
誰が不動産を引き継ぐか決める
↓
書類を作成する
↓
名義を変更する
というように、いくつかの段階があります。
さらに、その不動産を売却する予定がある場合には、売却に向けた準備も必要になります。
「すぐに売って、代金を分ければいい」
と思っていたところ、相続の手続きだけで時間がかかり、売却の予定にも影響してしまうことがあります。
だからこそ、不動産をお持ちの方は、元気なうちに一度、ご自身の不動産の名義や状況を確認しておくことをおすすめします。
相続で困るのは「家族仲が悪いから」とは限りません
ここまで5つの例をご紹介しました。
いかがでしょうか。
もしかすると、
「うちも、親が亡くなったら同じことになりそう」
と思われた方もいらっしゃるかもしれません。
相続で問題が起こると、
「家族がもめた」
と思われがちです。
でも、実際には、
財産がどこにあるのか分からない
不動産の名義が分からない
誰が相続人なのか分からない
親がどんな希望を持っていたのか分からない
必要な手続きが分からない
という、「分からないこと」が原因で家族が困ってしまうケースもたくさんあります。
つまり、相続の準備は「家族が仲良くするため」だけではありません。
家族が迷わないための準備でもあるのです。
今からできることは、難しいことではありません
「では、何をしておけばいいのでしょうか?」
難しく考える必要はありません。
まずは、
① 不動産の名義を確認する
自宅や土地などが、現在誰の名義になっているのか確認してみましょう。
② 財産を一覧にしてみる
預貯金、不動産、保険など、どのような財産があるのかを書き出してみましょう。
③ 家族に伝えておく
重要な書類がどこにあるのか、どのような財産を持っているのかを、家族に伝えておきましょう。
④ 自分の希望を考える
「自宅は誰に残したいのか」「預貯金はどうしたいのか」など、自分の希望を整理してみましょう。
⑤ 必要なら遺言書を作る
希望が明確になったら、それをきちんと残す方法として、遺言書を検討してみましょう。
「まだ元気だから」は、相続の準備を始めるのに
ちょうどいい時期かもしれません
相続の準備というと、
「まだ先のことだから」
と思ってしまう方も多いでしょう。
でも、相続の準備は、亡くなる直前に慌ててするものではありません。
元気なうちに、
「自分の財産はどうなっているのか」
「家族に何を残したいのか」
「家族にどんな負担をかけたくないのか」
を考えておく。
それだけでも、いざというときの家族の負担は大きく変わります。
そして、もし不動産をお持ちであれば、まずは一度、名義を確認してみてください。
「自分の家だから、自分の名義になっているはず」
と思っていたものが、実際には違っていることもあります。
相続は、亡くなってから始めて考えるのではなく、元気な今だからこそ、できる準備があります。
「何から始めればいいのか分からない」という方は、まずはご自身の財産を書き出すところから始めてみてはいかがでしょうか。
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